『推しの敵になったので』1巻 感想と評価|ラブコメと異能バトルが交差する“推し活ラノベ”
総合評価

※画像はTOブックス様より引用
作品情報
- タイトル:推しの敵になったので
- 著者:土岐丘しゅろ
- イラスト:しんいし智歩
- 出版社:TOブックス
あらすじ
主人公は、かつて夢中になって読んでいた漫画『私の視た夢』——通称「わたゆめ」の世界に転生してしまった。
この世界では、異能力《天稟(ルクス)》がほぼすべての女性にのみ与えられる力として存在し、
その結果、社会は女性優位の男女逆転世界へと形を変えていた。
ところが、転生者である主人公・イブキは、男性でありながら《天稟》を所持していた。
そんな彼がこの世界で目指すのは、なんと——推し活!
正義の組織【循守の白天秤】に所属する新人隊員・ヒナタを誰よりも愛するイブキは、
時に幼馴染の兄として、
時に悪の組織【救世の契り】の構成員として、
彼女の活躍を最前線から(こっそり)見守っていくのであった——。
詳細評価(5段階)
- 主人公:
あくまで“推し活”のために行動し、敵役としてヒロインを陰ながらサポートするというスタンスがとても新鮮で、面白く描かれていました。
戦う理由が「推しのため」という一点に集約されているのがユニークで、これまでにない主人公像として楽しめます。 - ヒロイン:
イブキとは普段、幼馴染の兄として接しており、その親しみやすさと信頼感が伝わってくる関係性でした。
一方で、ヒナタ自身も敵と対峙する時には凛々しく、普段と戦闘時のギャップが魅力的に描かれていました。 - シナリオ:
序盤はやや説明が多く、設定に慣れるまではテンポが落ちる印象がありますが、後半の展開はしっかり盛り上がり、クライマックスでは引き込まれました。
推し活×異能力バトルという組み合わせがうまく機能しています。 - 気楽さ:
設定や世界観の理解にはやや時間がかかるものの、深く考え込まずとも楽しめる作風になっており、適度に読みやすいライトノベルです。 - 後味:
1巻としては綺麗に一区切りついており、読後感は良好。
今後、主人公とヒロインの関係がどう変化していくのか、続きを読みたくなる終わり方でした。 - 長さ:
ボリュームは標準的で、可もなく不可もなくといった印象。過不足ない分量で、1巻として十分な読み応えがありました。
良かった点
本作の異能力バトルでは、世界観の根幹にある《天稟(ルクス)》の設定が非常によく活かされていました。
能力の強さだけでなく、“代償”というペナルティを伴う構造が物語の緊張感や戦闘の駆け引きを生み出しており、読み応えのあるバトル展開になっています。
ただのチート能力ものではなく、制約付きの力をどう扱うかという点が面白さにつながっていました。
気になった点
主人公・イブキは“推し活”を目的にヒロインを応援しているものの、あくまでアイドル的な存在として見ており、恋愛感情は持っていない描写が続きます。
一方で、ヒロインたちはかなりはっきりとした好意を向けているため、関係性の温度差がやや気になる部分でもあります。
鈍感系主人公に慣れている読者には問題ないと思いますが、恋愛面の進展や両想い的な描写を求める読者には、少し引っかかるかもしれません。
実際に読んで感じたこと
自分が読んでいた漫画の世界に入り込み、推しを守るために行動するというコンセプトは、ありそうでなかった切り口でとても新鮮でした。
異世界転生や推し活がテーマの作品は増えていますが、本作はその両方を丁寧な設定と感情描写で融合させていたのが印象的です。
中盤まではもどかしく感じる展開もありましたが、しっかりとラブコメらしい空気感もあり、終盤では設定を活かした盛り上がりもあって非常に楽しめました。
王道とは少し違うけれど、だからこそ面白い1冊でした。
まとめ
推し活×異能力バトルという一風変わったコンセプトをしっかりと活かした意欲作。
読んでいた漫画の世界に転生し、推しを陰から支えるという展開は新鮮で、設定や世界観も丁寧に構築されていました。
序盤はやや説明が多めでテンポは落ち着いていますが、後半にかけては設定の代償や立場を活かした展開でしっかり盛り上がり、ラブコメ的なやりとりも挟みつつ、読後には満足感が残ります。
鈍感系主人公や“恋愛未満”の関係性が苦手な方はやや好みが分かれるかもしれませんが、王道から少し外れた物語を楽しみたい方にはおすすめの1冊です。