『俺にトラウマを与えた女子達がチラチラ見てくるけど、残念ですが手遅れです 1』感想|過去のすれ違いが動き出す学園ドラマ系ラブコメ
総合評価

※画像はオーバーラップ文庫様より引用
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作品情報
タイトル:俺にトラウマを与えた女子達がチラチラ見てくるけど、残念ですが手遅れです 1
著者:御堂ユラギ
イラスト:緜
出版社:オーバーラップ文庫
あらすじ
高校に入学した九重雪兎は、これまでの人生で“女運が最悪”だった。
家族や幼馴染、女友達までも癖の強い相手ばかりで、思い込みやすれ違いが重なり、度重なる拒絶を受け続けた結果、心が大きく傷ついてしまっていた。
誰も信じず、誰にも期待しない──そんな雪兎の前に、かつて彼にトラウマを与えた女子たちが現れ、なぜかチラチラとこちらを気にするようになる。
あのときの言葉や行動は本心ではなかったのか。
過去に傷つけてしまった側と、信じることをやめてしまった主人公。
すれ違い続けた関係が再び動き始める、心の距離を埋めていく学園青春ストーリー。
詳細評価(5段階)
主人公:
雪兎は過去の出来事によって心が深く傷つき、感情が壊れてしまった状態にある。空気が読めないわけではなく、誰にも期待せず、自分がどう評価されても気にならないという達観に近い無関心さが特徴。
明るく振る舞う一方で、内側が冷え切っているギャップに不気味さすらあり、過去の環境が人格を歪めたことへの説得力も強い。
ただ、“壊れたまま”の言動が続くため、共感するには少し難しい主人公でもあった。
ヒロイン:
雪兎にトラウマを植えつけた女子たちは、それぞれ後悔や理由を抱えており、単なる加害者ではない深みがある。
とはいえ、思春期のすれ違いで済むレベルではない行動も多く、「これはどうなのか」と感じる場面があるのも事実。
本心とは異なる言動をしてしまったことへの後悔は丁寧に描かれており、不器用さや揺れ動く感情が物語に良いアクセントを与えている。
周囲が問題児だらけな中、ふと登場する先輩キャラが癒しとして機能していたのも印象的。
シナリオ:
過去のトラウマとなった出来事がすべて“理由付き”で描かれ、それが主人公の人格崩壊へつながったという設定は他にない新鮮さがある。
タイトルどおりの展開でありながら、過去と現在をつなぐ説明が丁寧で、ヒロインたちが“元の関係に戻りたい”と行動する動機にも説得力がある。
雪兎の突発的な言動が多く、先を予想しづらい展開が続くため、読み進めるほど次が気になる構成。
トラウマ系の題材ながら読みやすさを保っているのも好印象。
気楽さ:
ラブコメ的な軽さはあるものの、トラウマが主題のため全体としてやや重めの空気を帯びている。
とはいえ、暗さを引きずらせない工夫が随所にあり、読後のしんどさは意外と軽減されている。
会話テンポは軽快で、シリアスと日常のバランスも良好。
甘いラブコメを期待するとギャップはあるが、ドラマ要素のある作品としては十分気軽に読める印象。
後味:
テーマは重いものの、読後は前向きな余韻が残る構成になっている。
“過去と向き合う苦しさ”よりも“変わろうとする姿勢”に重点が置かれ、救いのある終わり方が心地よい。
完全な関係修復には至らないものの、物語として自然な区切りと次への期待感を残す形でまとまっている。
重さに引きずられず、読み終えた後は気持ちが少し軽くなるタイプの余韻。
長さ:
ドラマ性のある作品としてはテンポが良く、現在と過去の切り替えも分かりやすい。
無駄な引き延ばしもなく、1巻として“知りたい部分を適度に残す”バランスのいい構成。
ページ数のわりに読み進めやすいため、一気読みできるタイプのボリューム感。
続刊への導線も整っており、シリーズとして期待できる仕上がりだった。
良かった点
過去の出来事が主人公の人格形成に強く影響しているため、行動や感情が“設定だけで終わらず物語に落とし込まれている”点が非常に良かったです。
ただ明るいだけのラブコメではなく、すれ違いや後悔が絡むドラマが加わることでキャラクターの深みが増しており、読んでいて先が気になる構成になっています。
ヒロインたちの誤解や過去の行動にも理由が用意されているため、単純な加害者・被害者の構図にならず物語としての納得感があったのも魅力。
中でも先輩キャラの存在が作品の癒しとして機能しており、重さのあるテーマの中で良い緩急を生んでいました。
気になった点
主人公とヒロインたちの過去描写は興味深い一方で、加害側の行動が「思春期のすれ違い」で片づけるには重すぎる場面も多く、納得しづらいところがありました。
ヒロインたちに後悔や理由があるとはいえ、読者としては雪兎の受けたダメージが大きすぎて、簡単に感情移入しにくい部分もあります。
また、主人公の壊れたメンタル描写がリアルな反面、感情の読みにくさが続くため、共感よりも距離を感じてしまう点もありました。
ドラマ性は強いものの、心情の重さが前面に出る場面では読む人を選ぶ作品になっている印象です。
実際に読んで感じたこと
主人公の壊れたメンタルや無関心な振る舞いに最初は戸惑いましたが、その裏にある過去の積み重ねを知ることで物語へ一気に引き込まれました。
ヒロインたちの後悔や複雑な感情も丁寧に描かれており、単なる加害者では終わらない関係性が魅力的に映ります。
一方で、雪兎の感情の読みづらさや加害側の行動の重さは好き嫌いが分かれそうで、ライトなラブコメとは明確に違う空気感の作品だと感じました。
それでも、トラウマを抱えた主人公がどう変化していくのかを見届けたくなる“続きを期待させる一冊”でした。
まとめ
トラウマを抱えた主人公と、過去に彼を傷つけてしまったヒロインたちの関係を丁寧に描く、すれ違い系の学園ドラマとして魅力のある一冊でした。
ラブコメとしての軽さよりも、人物同士の感情の絡みや後悔、再生が主軸となっており、読み進めるほど先が気になる構成になっています。
主人公の心の重さや加害側の行動は好みが分かれるものの、物語としてしっかり理由づけされているため、テーマ性の強い作品が好きな読者には刺さる内容でした。
今後、雪兎がどのように人間関係を取り戻していくのか、続巻での展開に期待が高まります。
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