処刑回避なのに英雄扱い!? 『やり直し悪徳領主は反省しない!』感想レビュー
総合評価

※画像はKADOKAWA様公式サイトより引用
作品情報
タイトル:やり直し悪徳領主は反省しない!
著者: 桜生懐
イラスト: へりがる
出版社: 富士見ファンタジア文庫
あらすじ
前世では無能な領主として民に憎まれ、ついには処刑されたフラッド・ユーノ・フォーカス。
だが目を覚ますと、彼は過去に巻き戻っていた――しかも処刑される数年前。
今度こそ民の怒りを買わず、静かに引退して生き延びることを目指すフラッドは、前世の知識を活かして極力人と関わらない道を選ぼうとする。
……が、その行動がなぜか「有能」「誠実」「英雄的」と誤解されてしまい、気づけば周囲から大きな信頼を集めてしまうことに!?
処刑回避を目指すだけのやり直し領主が、思いもよらず領地を救い、未来を変えていく――皮肉と勘違いが織りなす、痛快ファンタジー開幕!
詳細評価(5段階)
主人公:
処刑を回避したい一心で「目立たず生き延びる」方針をとるも、なぜかすべて裏目に出て英雄扱いされてしまう。
前世で酷い目に遭わされたのに、なぜか救いたいと思ってしまう善人ぶりが光る一方、基本的には情けない行動が多く、危機の切り抜けも能力頼りになってしまっている点はやや気になるところ。
ヒロイン:
メインヒロインは一途で安心感があり、その他のヒロインたちも個性豊かで魅力的。
中でも王女のキャラクターが特にかわいく、存在感が強い。
シナリオ:
一見コメディ寄りの展開ながら、各所に前世の影や因果が散りばめられていて、物語に深みを与えている。
主人公の“回避したいだけ”の行動が周囲に大きな影響を与えていく流れもテンポよく、読み応えがありました。
気楽さ:
軽快な文体と誤解コメディでテンポは良いが、処刑・裏切り・不穏な過去など重めの要素も随所にあるため、完全な気楽枠とは言いづらい。
ただし緊張感と笑いのバランスは良好で、一気読みしやすい内容です。
後味:
過去の因縁を断ち切ろうとする姿勢と、巻き込まれながらも人望を得ていく様子が前向きで、読後は意外とさっぱりした気分に。
やり直し物のなかでは珍しく「反省しない=後悔していない」主人公が新鮮でした。
長さ:
描写もテンポも中だるみせず、1巻としてちょうど良いボリューム感。
セリフも多く読みやすいため、時間がなくてもスッと読了できます。
良かった点
処刑を回避したいだけの主人公が、前世の知識を駆使してなるべく関わらないように立ち回るものの、なぜか周囲からは誠実で有能な領主として評価されていくギャップが非常に面白く、ヒロインたちとの距離感やテンポの良い会話劇も含めて、笑えて少し切なくなるやり直し劇として楽しめる作品でした。
情けなくも善良な主人公の言動と、彼を取り巻く女性キャラたちの個性がうまく絡み合い、誤解と信頼が絶妙に交差する展開が読後の満足感を高めてくれました。
気になった点
主人公が持つ能力がかなり万能で、困ったときは大体なんとかなるため、緊張感がやや薄れてしまう場面もありました。
また、過去に戻った理由については特に触れられず、やり直しの設定自体がややご都合主義に見えてしまう部分も。
物語のテンポが良いぶん、細かい説明が省かれがちなのは少し気になるところでした。
実際に読んで感じたこと
タイトルの「やり直し悪徳領主は反省しない!」に惹かれて、「やり直すのに反省しないってどういうこと?」と興味を持ち、手に取りました。
実際に読んでみると、主人公が自分を守るために動いているだけなのに、なぜか好意的に受け取られていく展開がテンポよく描かれていて、ギャグ寄りのノリで非常に楽しめました。
ただ、これだけ頭が回り、行動力もある人物なら、前世で何もできなかったのは少し不自然に感じたのも事実です。
「悪徳領主」とタイトルにありますが、実際の行動は完全に善人そのもので、今後の成長や展開も気になる、続刊が楽しみな作品でした。
まとめ
処刑を回避するために行動しているだけなのに、周囲には「理想の領主」として認識されてしまう――そんなズレが楽しい、誤解系やり直しファンタジー。
重たい設定を持ちつつも、物語全体は軽快なテンポで進み、読後には程よい満足感が残ります。
善人すぎる悪徳領主・フラッドの行動を、ニヤニヤしながら追いかけたい方にぴったりの作品です。
※画像はKADOKAWA様公式サイトより引用