『ロストワールド』感想レビュー|終末世界を走る“おっさんと少女”のバイク旅
総合評価
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作品情報
タイトル:ロストワールド 終わる世界で少女は海をめざした
著者:初美 陽一
イラスト:toi8
出版社:ドラゴンノベルス
あらすじ
文明が崩壊した世界を、バイク一つであてもなく旅する男・オーサン。
彼は道すがら立ち寄った廃墟の中で眠る少女を見つけ、目を覚ました彼女――ローストは短く「海へ、いく」と呟きます。
もともと行き先のない旅だったオーサンは、危うさの残る少女を放っておけず、彼女を海まで送り届けることを決意します。
こうして二人は、終わりかけた世界を横断する“旅”を共にすることになります。
しかし道中には、少女を狙う謎の追っ手の影があり、旅は決して穏やかなものではありません。
そして物語は「なぜ世界はこんな姿になったのか」「人々はこの世界でどう生きているのか」「なぜ少女は海を目指すのか」という謎へと、少しずつ踏み込んでいきます。
文明の発展が行き過ぎた末に崩壊へ至った世界を舞台に、旅の景色と人々の暮らしを辿りながら真相に近づいていく――ポストアポカリプス×SFのロードノベルです。
詳細評価(5段階)
主人公:
機械いじりが好きな陽気なおっさんで、文明が崩壊した世界でも折れずに走り続ける姿が魅力的でした。荒廃した景色の中で、主人公の軽さやユーモアが空気を少しだけ温めてくれるので、読んでいて重くなりすぎないのも良かった点です。旅の途中で出会う人々の表情が、主人公との関わりによって少しずつ柔らかくなっていく描写もあり、ロードノベルとしての手触りを支えていたと思います。ただ一方で、生活力も戦闘力も高く、いざという時の判断も揺らがないため、頼もしさよりも「万能すぎる」「感情のブレが少なすぎて人間味が薄い」と感じる場面があり、そこは好みが分かれそうです。
ヒロイン:
ヒロインというよりは親子に近い距離感で、旅の中で少女が少しずつ“人としての輪郭”を取り戻していく構図が印象的でした。最初は言葉数も少なく危うげなのに、道中の出来事を経て少しずつ心を開いていく流れが自然で、物語の感情面を担っていたと思います。抱えている問題や背景が徐々に見えてくる作りになっているので、ミステリアスさが持続し、先を読みたくなる引きにもなっていました。ただ恋愛としての甘さは控えめで、どちらかと言えば「守る」「導く」「育つ」という関係性が中心なので、ラブコメを目的に読むと期待値は調整した方が良いと思います。
シナリオ:
崩壊した世界をバイクで巡り、旅の風景と人々の暮らしの断片から世界の輪郭を掴んでいく流れはとても良かったです。寄り道のように見える場面にも“世界がどうなっているのか”の情報が滲ませてあり、旅を続けるほど謎の形が浮かび上がっていく感覚がありました。一方で、敵のような存在が出てくる場面は急にファンタジー色が強くなった印象があり、ポストアポカリプス×SFとして積み上げてきた空気と噛み合わないように感じたところもあります。また1冊完結としてまとめるためか、終盤は説明や感情の処理が早足になり、「もう少し余白を使って納得させてほしかった」と思う部分が残りました。
気楽さ:
自分は少し読みにくさを感じました。SF的な説明や概念が会話や描写に混ざってくるため、慣れていないと理解に時間がかかる箇所があると思います。ただ、物語の軸そのものは「旅をして、追われて、真相に近づく」という一本道なので、全部を理屈で飲み込まなくても雰囲気で追いかける読み方はできます。逆に言えば、世界設定をきっちり理解して噛みしめたい人ほど引っかかりやすく、旅情を味わう人ほど読みやすい、というタイプの作品だと感じました。
後味:
ラストは綺麗に終わっており、読後感は良好でした。道中で感じた違和感が完全に解消されるわけではありませんが、物語としての着地は丁寧で、旅の終わりの余韻もきちんと残ります。悲壮感で押し切るのではなく、静かに「これで良かったのだ」と思わせる締め方なので、読み終えた後の温度感は落ち着いていました。派手なカタルシスよりも、しんみりとした余韻が好きな人には刺さる終わり方だと思います。
長さ:
ボリュームは標準的で読みやすい長さですが、題材を考えるともう少し尺が欲しいとも思いました。旅の途中の出来事や世界観の“納得に必要な説明”が、終盤に寄ってしまった印象があり、結果的に駆け足に感じた部分があります。もう数章ぶん余白があれば、世界の混在感(古い機械と最新設備、超常的な要素など)にも読者側が腑に落ちる時間が作れたのでは、と感じました。それでも一冊でまとまり、読了まで引っ張る力はあるので、短めに旅と謎を楽しむ作品としては成立しています。
良かった点
主人公の明るさと万能さが旅の空気を前向きにしてくれる点は素直に良かったですし、親子のような距離感で少女が成長していく関係性も本作の芯になっていました。滅びた世界をバイクで走るロードムービー的な雰囲気が強く、景色の寂しさと人の温かさが交互に来るのも魅力です。旅を続けるほど「なぜ世界がこうなったのか」「少女は何者なのか」という謎が形になっていき、真実へ近づいていく感覚がある点も良かったと思います。
気になった点
世界観として、古い機械と最新設備が混在していたり、超常的な要素が入ってきたりするため、SFとしての整合性に違和感が残る場面がありました。そこが意図的な“異常”として描かれている可能性はありますが、読んでいる最中に納得が追いつかないと没入が途切れやすいと思います。また1冊完結の都合か終盤が駆け足で、説明や感情の処理が早く、「そうなる理由」を噛みしめる前に話が進む印象もありました。
実際に読んで感じたこと
ポストアポカリプスの旅ものとしての空気感はかなり好みで、景色や人々の暮らしの描写は素直に楽しめました。けれどSF要素や設定の出し方が自分には少し複雑で、腑に落ちない点が残ったのも正直なところです。面白さは確かにあるのに、納得の手前で置いていかれる感覚があり、総合すると「刺さる人には刺さるが、自分にはあと一歩だった」読書体験でした。
まとめ
『ロストワールド 終わる世界で少女は海をめざした』は、文明崩壊後の世界をバイクで巡る旅情と、少女の正体に迫っていく謎解き感が魅力のSFロードノベルです。主人公の明るさと、親子のような距離感で育っていく関係性が作品の温度を作っており、読後感も静かに綺麗にまとまっています。一方で世界観の混在や終盤の駆け足感により納得しづらい部分もあるため、整合性重視の人には好みが分かれそうです。旅をしながら真実に近づいていく物語が好きな人には、一度試してみる価値がある一冊だと思います。
こんな人におすすめ
SFが好きで、旅をしながら世界の真実に近づいていく物語が読みたい人におすすめです。滅びた世界の景色やロードムービー的な雰囲気が好きな人にも合うと思います。ラブコメ要素は少しありますが主軸ではないので、恋愛を目的にすると期待しすぎない方が良いです。
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